会社について

私たちの商号「株式会社北海道食美樂」には、旧字の〈樂〉の字が入っています。そもそも〈ショクビラク〉という響きからして、ちょっと珍しい社名だとは思っていますが……。

創業者である相樂正博は、自衛官でした。北海道とは縁もゆかりもありませんでしたが、キャリアの終盤に着任したのがここ、日高の地でした。自衛隊の活動では、地元の理解を得ることが大切です。そんな教えに従って、知り合った地元の人たちと夜な夜な酒を酌み交わしていた相樂は、そのうちに、この地では増え過ぎたシカが大きな問題になっていることを理解しました。だからといって、もちろん自衛隊としてなにかできるわけではないのですが、地域の課題としての〈シカ問題〉は、相樂の意識の中にずっと残っていたのです。

世話になった日高の地に、いつか恩返しがしたい──そんな想いでシカ問題と向き合うようになった相樂は、シカについて学びはじめます。そしてほどなく、シカ肉には大きなアドバンテージがあると知りました。

高タンパクで低脂肪、低カロリー。しかも豊富な鉄分を吸収しやすいヘム鉄として含んでいるシカ肉は、鉄欠乏性貧血に悩みがちの女性にだけでなく、健康志向の強い現代の都市生活者のニーズにぴったりです。そこをアピールしながら、増え過ぎたシカを美味しいシカ肉として販売することで、地元での新しい産業を生み出し、雇用を創出して農林業被害も削減できる。やがて退官した相樂が満を持して立ち上げた事業が、北海道食美樂のスタートでした。

創業、2005年。私たち北海道食美樂は、北海道でエゾシカ衛生処理マニュアルが制定される以前から、試行錯誤を重ねながら食肉の生産を続けてきました。その歴史には、ここ日高の大地を愛した創業者、相樂正博の想いが、いまも強く流れています。


【会社概要】
株式会社北海道食美樂(ほっかいどうしょくびらく)
北海道新冠郡新冠町字緑丘12番地24
設立 平成17年(2005年)2月25日
資本金 1000万円
代表取締役 石崎英治(いしざき・ひではる)
従業員数 6名

【沿革】
平成17年(2005年) 相樂、株式会社静内食美樂を静内町(現新ひだか町)にて設立。
平成23年(2011年) 本店を、新冠町字若園に移転。
平成23年(2011年) 株式会社北海道食美樂に商号を変更。
平成26年(2014年) 本店を、新冠町字緑丘(現住所)に移転。
令和03年(2021年) 相樂、5月17日に逝去。石崎英治、代表取締役に就任。


北海道食美樂の事業の柱は、熟成エゾシカ肉の製造販売です。適切に捕獲され、適切に処理されたシカ肉はそれだけで十分に美味しい食材ですが、そんなシカ肉の魅力を最大限に発揮させて広く世の中の人々に味わってもらいたい、という想いが強く、創業の最初から「長期熟成」にこだわってきました。ハンターの技術や解体の手際に起因する肉へのダメージは、努力で減らすことが可能です。しかしその肉に価値をプラスできる方法は、実はそれほどありません。私たちの選択は、その代表的なひとつである「長期熟成」でした。

シカ肉の特徴は、水分と鉄分が豊富なことです。水分量が多いというのは、火入れの難しさにつながります。火加減が強すぎると焼き縮みが出やすく、結果としてパサついた食感になってしまいます。また鉄分が豊富なのは栄養価としては優れていますが、時間をかけて熟成しようとすると、とくに切断面が空気に触れることで酸化して、独特な臭いが生じます。いずれも長期熟成の泣きどころなのです

私たちはそこで、ドライエイジングという熟成方法を採用しました。ドライエイジングとは、低温多湿な環境を整えて、肉の水分をゆっくりと飛ばしながら、タンパク質をじっくりと変性させてアミノ酸量を増やし、旨味を高めていくプロセスです。摂氏0度、湿度70パーセントにコントロールされた熟成庫は、肉の出し入れの影響を受けにくい十分な空間の大きさを備えています。また、脂を取り除いていない枝肉のまま吊るして熟成させることで、肉の断面を酸素に触れさせることなく、鉄分の酸化を防ぎます。ゆったりと循環する冷気の中で、およそ3週間をかけてゆっくりと熟成が進んだシカ肉は、乾燥によって重量比で10〜15パーセントほどの水分を失った代わりに、凝縮されたアミノ酸の旨味と、しっとりと柔らかな肉質、そしてナッツのように芳しい熟成香を手に入れるのです。

とはいうものの……ここまでの説明でお気づきになったかたもいらっしゃるかと思いますが、枝肉のまま長期熟成させたエゾシカ肉をチルドで販売するというマーケットは、基本的には外食産業、さらにいえば高級レストランの需要です。そして、その需要はここ数年来の新型コロナ禍の影響で、すっかり蒸発してしまいました……。そんな壊滅的な状況で、北海道食美樂のビジネスを支えてきたのが、ペットフード事業です。

犬は、狼が飼い慣らされて家畜化した動物です。そしてその狼の主食は、生態系の重なり合う部分が多い動物種の中でも、狩りやすく、食べでがあって栄養価も高い──そう、シカなのです。その意味では、ドッグフードとしてシカ肉の適性が高いのも当然で、生肉や内臓だけでなくドライフードやアキレス腱、そしてワンちゃんが大好きなおしゃぶり用の角までも、私たち自身の口に入るものと同じように大切に、大切に仕上げています。

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