熟成庫の扉の中から──“最高の一本”ができるまで

こんにちは、北海道食美樂(しょくびらく)です。
前回の記事(北海道の命を、全国のレストランへ。「熟成エゾシカ肉」へのこだわり)では、私たちがなぜ“熟成”にこだわるのか、その背景をお伝えしました。

今回は、その「こだわり」が実際にどのように現場で形になっているのか──
熟成庫の中で何が起きているのか、熟成庫の扉の向こうから少しだけご紹介します。

熟成庫に入ることができる個体は、実は限られています

私たちが仕入れるエゾシカは、契約ハンターの方々が捕獲し、血抜きや引き出しといった処理を丁寧に、かつ素早く処理場に搬入されたエゾシカに限られます。
しかし、どんな個体でも熟成に適しているわけではありません。

熟成に向いているのは、脂がしっかりのっている個体。
脂は最終的にはトリミングされますが、それまでの間、肉の表面を乾燥や雑菌から守る“天然のラップ”の役割を果たします。

さらに、血抜きの状態も非常に重要です。
血が十分に抜けていないと雑菌が繁殖し、熟成には不向きな肉になってしまいますし、血の香りがする肉になってしまいます。血の香りこそがジビエであるというシェフもいらっしゃいますが、一般的には血の香りはないほうが好まれます。
そのため、着弾位置は首か頭に限定。致命傷ではあるものの、心臓がまだ動いている状態となることで、放血効率を高くします。放血用のナイフに関しても、刺す位置・角度・深さも徹底的に管理しています。

搬入までの時間は、捕獲から2時間以内。
時間がたつほどに雑菌が増殖することはもちろん、反芻動物であるエゾシカは腹腔内にガスが溜まりやすく、その臭いが肉に移ってしまいます。
エゾシカは胃の中で食べた草を発酵させることから、死んだ後も体温が下がりにくいです。エゾシカ用の体温計で中心温度を確認し、品質のチェックを行うこともあります。

エゾシカは熱がこもりやすい──搬入する際の屠体「角度」まで指定

非常に細かいところですが、エゾシカの屠体は持ち運ぶときの角度も重要です。
姿勢によって体内に熱がこもりやすくなり、「PSE(蒸れ肉、pale soft exudative meatの略、白っぽく、柔らかく、水っぽい肉)」と呼ばれる異常肉になることがあります。
PSEとなった異常肉は、加熱後にパサつきがあり、旨みも落ち、食肉としても質が悪く、当然ながら熟成には不向きです。

そうしたことまで理解し、迅速かつ丁寧に対応してくれるのが私たちの契約ハンターの皆さんです。
駆除奨励金だけを目的とするハンターであれば、たくさんのエゾシカを効率的に捕獲するほうが良いでしょう。最高の熟成エゾシカ肉を作るには、捕獲するまさにそのタイミングからが生産工程のため、面倒で手間のかかるお願いもありますが、現場責任者の菊地源人(きくち みなと)が真摯に説明を重ね、信頼関係を築いています。

判断するのは「部位」ではなく「個体そのもの」

最高の一本にするために、熟成庫に入れる!これを決める際、私たちが見るのはロースやモモといった特定の部位ではありません。
個体全体の筋肉の張り、皮下脂肪の厚み、香り、色──総合的な評価が重要です。
その判断を担うのも菊地です。

余談になりますが、菊地は2024年にVENISON MEISTER(ベニソン マイスター)として、エゾシカ食肉事業協同組合より認定を受けました。
作業の確実さ、肉を見る目、そして猟師やスタッフとの調整力まで兼ね備えた、名実ともに現場の要です。

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熟成庫では「ただ待つ」わけではありません

熟成とは「寝かせる」ことではなく、肉の風味と質を高めるための生産工程そのものです。
私たちの仕事は、生き物を食べ物に変えること。
そして、レストランの仕事は、その「食べ物」を「料理」に変えることだと思っています。
少し照れくさい言い方ですが、熟成という生産工程は、「食べ物」を「料理」に近づけていく、レストランのシェフに近い存在なのではないかと感じています。

熟成庫の温度は約0℃、湿度は70〜80%。
冷蔵装置のファンの角度は固定されていますが、吊るす位置を変えたり、枝肉に布を巻いて乾燥を防ぐなど、細かな調整が毎日行われます。

熟成度合いの判断ポイントは、枝肉の表面の色と立ち上がってくる香り。
ナッツのような香りがただよい、乾燥が進んでくるまでに、約3週間を要します。

解体にも、熟成の“味”を左右する責任がある

熟成が終わった肉は、そのままでは出荷できません。
骨を外し、部位ごとに整形し、真空包装して凍結。
ここでも解体スピードと丁寧さのバランスが問われます。

熟成肉は、通常の肉よりも傷みやすく、美味しく食べられる期間が短いのです。
だからこそ、熟成のピークを見極めたタイミングで、丁寧にかつすばやく解体し、凍結によって熟成を止める必要があります。

すべての熟成エゾシカ肉は解体後にスタッフによる検食を行います。出荷可否を最終的に決めるのはこの検食のプロセスで、合格した肉だけがレストランに届きます。

衛生管理の基準も、最高レベルで

私たち北海道食美樂の処理施設は、食品衛生法の食肉処理業の営業許可(許可番号:日静生衛 第29-16号)を取得しています。また、それに加え、北海道エゾシカ施設認証 の認証施設(NO.005)でもあります。

エゾシカ肉の処理工程はすべて、エゾシカ衛生処理マニュアルに準じて行っています。このマニュアルは平成18年に北海道庁が発行したものですが、実はそのモデル施設となったのが、私たち北海道食美樂なのです。

“熟成”という付加価値は、徹底した衛生管理の土台があってこそ成り立ちます。
安全で、おいしくて、美しいエゾシカ肉をお届けするために、私たちは一切の妥協をしません。

“最高の熟成エゾシカ肉”は、こうして生まれる

こうして仕上がった熟成エゾシカ肉は、しっとりとした舌触りと、奥深い香りをまとった“野生の芸術品”。
一流の料理人たちが「エゾシカのイメージが変わった」と語ってくださる理由が、ここにあります。

レストラン関係者の方へ。
試食やサンプル出荷も承っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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